2021年10月16日(土)に開催した、「一般向け体験セミナー」に寄せられた質問にお答えします。
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一つの質問に、複数の先生が回答されているものもあります。わかりやすいように、先生ごとに回答を分けていますので、見比べて見てください。
Q1 タンパク質の起源について(遠藤先生の回答)
【遠藤先生の回答】
地球が誕生して46億年と計算されていますが、40億年前頃に微生物のような生命体が誕生して、それから進化を繰り返し、現在の2000万種の生物が生まれました。それ以前は、化学反応が地球を支配している時代で、ヌクレオチド(核酸の成分)やアミノ酸が既に化学反応で豊富につくられていたようです。
そして、遺伝情報の担い手であるヌクレオチドが繋がったRNAが生成し、その中でアミノ酸を連結する触媒活性をもったRNA分子が増えていき化学反応の支配する分子になりました。この時代を化学進化と呼ばれている時代で、その主役はRNAで”RNA世界”とも呼ばれています。
タンパク質はRNAよりも安定で丈夫なために色々な強い触媒作用を示します。その内にRNAにそれらのタンパク質が結合して、タンパク質をより能率良く合成できる”リボソーム(小川先生のお話に出て来た遺伝情報の発現(タンパク質合成)の主たる装置です)”ができました。
この分野、未だ仮説が多いので、誰かが研究して解明してください。
Q1 タンパク質の起源について(小川先生からの回答)
生命の起源については未だ良く分かっていないこと(ミステリー)が多いです。タンパク質を構成するアミノ酸や核酸(DNA, RNA)を構成するヌクレオチドがどのようにして生成したかも(多くの説が提唱されていますが)完全には解明されていません。また、DNA→mRNA→タンパク質という情報伝達の流れにおいて、各ステップ(転写・翻訳)で酵素(タンパク質)が用いられているという事実は、「最初のタンパク質がどのように作られたのか?」という疑問を生じさせます。
ただ、後者の疑問に対しては、多くの科学者が支持する仮説に基づけば一応説明できます。それは、「遥か昔はRNAだけの(DNAやタンパク質が無い)世界(RNAワールド)があった」、つまり「RNAが初めに生まれた」とする仮説です。おそらく、ヌクレオチドの活性種(現代のものとは異なる構造?)がランダムに結合したのでしょう(アミノ酸がランダムに結合するよりもエネルギー的に現実味があります)。
実は、ヌクレオチドの配列によっては、RNAがタンパク質酵素のような機能を発揮することがあります。このようなRNAはリボザイムと呼ばれていて、例えば、リボソーム(数十種のタンパク質と数種のrRNAの複合体)を構成するrRNAの1つはリボザイムです。ヌクレオチドがランダムに結合したRNAの中に、アミノ酸を結合させる酵素活性を持つリボザイム(現代のrRNAの祖先?)が“たまたま”出現し、その結果、タンパク質が生まれたのではないかと考えられています(アミノ酸結合速度は、現代のリボソームによるものと比べてかなり遅かったと想像できます)。
ちなみに、DNAは(タンパク質が生まれた後の時代に)RNAの逆転写によって生まれたと考えられています。その証拠に、現存する一部のウイルスは、逆転写酵素(タンパク質)を持っていて、RNA→DNA(セントラルドグマの向きと逆)の情報伝達を行うことができます。
Q2 この分野の最大の可能性は何ですか?(遠藤先生からの回答)
無細胞タンパク質合成技術は、人類のために医薬品の開発に利用する以外にも、夢はたくさん在ります。
1)地球外生命体研究への活用:
宇宙科学の進展によって、微生物のような地球外生命体の住んでいる星は必ず存在するだろうと信じられるようになってきています。
生命探査機で、生命体の存在(又はかつて存在した)が確認できても、どのような生物であるかを調べることはできません。なにしろ、光の早さでも数時間から、その果ては137億年もかかる遠方なので、生き物を持ち帰って分析できません。
しかし、DNA やRNAの塩基配列が分かれば、地球上でタンパク質を無細胞法で合成して、そのタンパク質の性質を調べれば、その生命体をかなり理解することができます。地球外生命体研究には必須な技術です。
2)エネルギー生産技術開発への利用:
殆ど無尽蔵で無料のエネルギーが太陽から降り注いでいます。そして、地表近くのエネルギーである石炭や石油などはすべて、植物がその光合成作用(水を水素と酸素に分解)で太陽エネルギーを固定化したものです。
その過程もタンパク質の働きによって営まれています。そのメカニズム解明のために種々の関連するタンパク質を無細胞合成して、研究を進めることができます(植物にその方法を教えてもらう!)。
そのあかつきには、太陽光さえあてれば、無料で環境に優しい(水素と酸素が反応してエネルギーが発生して、副産物に水ができる。二酸化炭素等は出ない)エネルギーを、化石燃料を燃やすことなく、無尽蔵に生産出来ることになるでしょう。
その他にも多くの夢(仮説)をみることができますが、実験的に先ず確認することから実用化が始まります。
”仮説 → 確認” この両方こそが、研究なのです。
Q2 この分野の最大の可能性は何ですか?(小川先生からの回答)
「無細胞合成」を使えば、タンパク質を(生物を改変することなく)簡単に合成できます。
また、合成できるタンパク質(ポリペプチド)の種類は、天文学的数字(無限に近い)です。その中から、医学的に価値のあるもの(薬・ワクチンなど)や産業的に価値のあるもの(酵素・構造タンパク質など)の開発が期待されます。
可能性は無限大ですね。
Q3 講義3の答えを教えてください(東山先生の回答)
【問題1:人は約60兆個の細胞で作られていると言われています。では、受精卵1個から何回分裂を繰り返せば、人一人分の細胞数になるでしょうか?】
【問題1の答え】
対数で計算します。
2x=6×1013・・・・の両辺を対数に直すと
log2x =log(6×1013)
xlog2=log(6×1013)
x=log(6×1013)/log2=45.77…
となります。
2のX乗イコール60兆のときXは、約45.77です。
よって、46回分裂すれば成人の細胞数になります。
【問題2:細胞増殖の信号をリレーで伝えるときに使うバトンは何?】
【問題2の答え】
リン酸 です。
【問題3:日本人の名前が、学術用語になっています。その名前は?】
【問題3の答え】
Okazaki (岡崎)です。 Okazaki Fragment (岡崎フラグメント)として教科に記載されています。
岡崎令治 先生と 奥様の岡崎恒子 先生が発見されました。
発見当時のお話が「JT 生命誌研究館」のサイエンティスト・ライブラリーに掲載されています。素晴らしいお話ですのでぜひ読んでみてください。
【問題4:ヒト細胞一個の染色体DNAをつなぎ合わせた長さは?】
【問題4の答え】
1.8メートルと言われています。約2メートルと記載している教科書もあります。
【問題5:細胞が体の中で無秩序に増殖して起こす病気にどんな病気がありますか?】
【問題5の答え】
腫瘍 良性、悪性(がん)
皮膚 アトピー性皮膚炎、ケロイド
腎臓 膜性増殖性糸球体腎炎
血管 血管新生、動脈硬化、加齢黄斑変性(眼)
その他 たくさんあります。調べてみてください。
Q4 単細胞生物に、増殖因子をあたえたときも、今日と同じように細胞は増殖がおこるのですか?(東山先生の回答)
不意を突かれた質問ですね。
増殖因子にはたくさん種類があり、これに反応するには、それぞれの増殖因子と特異的に結合する受容体 (アンテナ)が必要です。単細胞生物にも色々ありますが、本講義でお話をした増殖因子の受容体 (アンテナ)は持っていないので、これらの増殖因子には反応しません。
単細胞生物は豊富な栄養と、適切な温度や湿度、水素イオン濃度など環境が整えば増殖できます。しかし、無限ではないようです。大阪大学理学部の先生が書かれた Q&Aが載っています。
一度読んで、さらに勉強してみてください。私も勉強します。
Q5 どうして生物は生きたり死んだりするのですか?(東山先生の回答)
深い、難しい質問ですね。
一個体が生き続けると、環境の影響を受け続けて、遺伝子が変異し、いずれ個体の正常機能が失われていくと考えられます。健康 (正常)な状態を維持し続けるには、世代を継ないで生きていくことがいい方法だと、生物は考えたんだと思います。
生き物は常に進化しています。ですから生物学、生命科学について出てくるいろんな質問に対する正解はないんだと思います。自分の考えが正解かどうかを考えていくのが科学ですね。
楽しい学問です。
Q6 白い紙などにブラックライトをあてると光りますが、白い絵の具はどうですか?(小川先生の回答)
ブラックライトを当てた時に白い紙が光るのは、その紙に「蛍光増白剤」(蛍光分子)が含まれている場合だけです。紙の原料分子(セルロースなど)が光っているわけではありません。つまり、白い絵の具も「蛍光増白剤」が混ざっていれば光りますが、混ざっていなければ光りません。実際にブラックライトを当てて確かめてみましょう。百聞は一見に如かずです。