2022年10月15日(土)に開催した、「とことん科学‼ 一般向け体験セミナー」に寄せられた質問にお答えします。
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Q1 研究者になる上で大切にしていること、したいことが知りたいです
「研究者である上で大切にしていること」という意味であれば、やはり「自分が面白いと思うことを研究する」ということです。「何かの役に立つから」という視点は大切だとは思いますが、たとえ今すぐに役立つような研究でなくても、自分の興味を信じて、それに基づいた研究を進めていくべきだと考えています。将来的にどこかで役立つかもしれません。ただ、研究を進めるには研究費が必要ですから、出資者や(出資を決定する)審査員を説得する論理性と熱意は必要です。(小川先生)
Q2 mRNAワクチンはどういう仕組みですか?
新型コロナ用のものを例にとると、「コロナウイルス表面にあるスパイクタンパク質のアミノ酸配列がコードされたmRNA」を脂質の膜で包んだものがmRNAワクチンです。これを注射して、mRNAが細胞内に取り込まれると、細胞内の翻訳装置(リボソーム、tRNAなど)が遺伝暗号表に従ってスパイクタンパク質を合成します。細胞内で合成されたスパイクタンパク質は様々な免疫反応を引き起こし、液性免疫(抗体産生)や細胞性免疫が獲得されます。前者の抗体は、コロナウイルスが体内に入ってきた際に、表面のスパイクタンパク質に結合してウイルスが細胞へ侵入するのを防ぎますし、後者は、ウイルスが感染した細胞を攻撃して排除してくれます。(小川先生)
Q3 タンパク質の技術はゲノム編集に活用することができますか?
ゲノム編集を行うためには、基本的にはZFN, TALEN, Cas9などの酵素が必要です。酵素は(一般的には)タンパク質の一種ですから、タンパク質の技術はゲノム編集に必須です。これらの酵素を人工的に改変することで、既存のゲノム編集技術をより良いものに改善できる可能性もありますね。(小川先生)
Q4 実験で小麦胚芽抽出液とアミノ酸の液を混ぜない理由は何ですか?
実験中にも説明していましたが、混ぜていないのではなく、「徐々に混ざるようにしている」のが正解です。小麦胚芽抽出液とアミノ酸の液(エネルギー物質(ATPやGTPなど)を含む)を最初から全て混ぜてしまうと、翻訳反応が長続きしません。これは、一気に(かつ無駄に)エネルギーが使われてしまうことや、副産物(無機リン酸など)が反応を邪魔するためだと考えられます。重層して徐々に混ぜることで、エネルギーが程よい速度で消費されるのに加えて、副産物は拡散によって上層に移っていくため、翻訳反応が持続して結果的にタンパク質の合成量が増えます。(小川先生)
Q5 IPS細胞も元は人間の体から見つかった(産み出された)ものなのでしょうか?細胞が突然増殖するのは、どのくらいの年代の方が一番多いのですか?
IPS細胞は、最初はネズミの細胞を使って人為的に作成されました。ネズミの細胞でうまくいったので、そのあと人の細胞で作成されました。「細胞が突然増殖する」年代というのはいくつくらいと一概に言えないのですが、癌細胞として出てくる年代は40才を超えてからが多いです。(東山先生)
Q6 コロナワクチンは、少しの確率でも人に悪い作用を及ぼすことはないのでしょうか?コロナワクチンを打った後、肌(顔)がアトピーっぽくなったのですが、ワクチンと関係はありますか?
ワクチンの副作用は、コロナウイルスの遺伝情報 (コロナウイルスのmRNA)を用いているからというよりは、mRNAワクチンを安定に供給するために使用する様々な添加物質によるところが多いのではと考えられます。ワクチン接種によってコロナウイルスに対する免疫抵抗性 (抗体)を獲得することで、何か悪いことが生じるとは考えにくいと思います。(東山先生)
Q7 再生医療の分野とタンパク質の関係はありますか?
はい、再生医療の分野では、再生医療に使うための細胞を安全に、かつ必要量増やすために、何種類もの細胞増殖因子タンパク質などを使います。人を含む動物の細胞を使ってタンパク質を合成すると、使用した動物種由来の病原体(ウイルスなど)を持ち込む危険性がありますので、細胞を使わずにタンパク質を人工的に作る技術は、再生医療の分野等で使うタンパク質合成には、欠くことのできない技術となります。(東山先生)