2026年9月26日(土)に開催した、「とことん科学‼ 一般向け体験セミナー」に寄せられた質問にお答えします。
質問1.設計図(DNA)をコピーする時に完全でなかった場合、その変異はどうなっていくのでしょうか。
【村井先生の回答】
DNAのコピーに間違いが起こっても、細胞にはDNAを修復する仕組みがあるため、多くの場合は正しく修復されます。しかし、修復されずに変異として定着した場合、その変異は細胞が分裂した後も受け継がれます。多くの変異は細胞の働きに影響しないため、体に問題が生じることはありません。しかし、変異によって細胞が増殖しやすくなった場合には、がんの原因になることもあります。また、卵子や精子など、次の世代につながる細胞に変異が起こった場合には、その変異が子どもに受け継がれる可能性もあります。
質問2.カフェラテにブラックライトを当てると緑色に光ったのですが、牛乳のタンパク質に反応したのでしょうか。
【小川先生の回答】
おそらく、牛乳に含まれるビタミンB2(タンパク質ではなく有機小分子)が光を吸収して、蛍光を発したのだと思います。
質問3.どうやって人間が人間の遺伝子を触り、遺伝子を改変できるのでしょうか。
【小川先生の回答】
「ゲノム編集」(2020年ノーベル化学賞)という技術を使えば可能です。ぜひ自分で調べて勉強してみてください。
【村井先生の回答】
現在では、「ゲノム編集」と呼ばれる技術を使って、DNAの特定の部分を切断したり、遺伝子の配列を変えたりすることができます。代表的なものに「CRISPR-Cas9(クリスパー・キャスナイン)」という技術があります。こうした技術は、遺伝子が原因となる病気の治療などに役立つと期待されており、実際に一部の病気では治療への応用が始まっています。
しかし、人間の遺伝子を自由に改変してしまうと、本人の健康に悪影響を及ぼすだけでなく、将来の世代や社会全体にも影響を与える可能性があります。そのため、ヒトの遺伝子改変には、安全性だけでなく倫理的な観点からも、極めて慎重な審査が必要です。実際に、遺伝子治療を行う際には、国が定めた規制や指針に従い、医療機関や研究機関などで厳格な審査を受ける必要があります。
質問4.実験の際、傾けないでとのことでしたが、傾けるとうまくいかないのですか?緑になった後で振ったら光らなくなりますか?
【小川先生の回答】
アミノ酸が入った液にはエネルギー物質も含まれているのですが、それが一気に抽出液に混ざってしまうと、エネルギーが無駄に使われる(&急増した副産物が邪魔をする)ため、翻訳反応が長続きしません。傾けないのは、液が徐々に混ざるようにするためです。
また、翻訳後に混ぜると、底に集まっていたGFPが拡散して薄まってしまうので、蛍光が弱くなってしまいます。
質問5.村井先生ががんの研究を始めたきっかけや理由は何ですか?
【村井先生の回答】
私はもともと整形外科医だったこともあり、最初はマウスを使って軟骨の研究をしていました。しかし、研究を進めるうちに、細胞の中で起こっている、もっと細かい生命現象に興味を持つようになりました。そして、縁あってDNAの損傷と修復を研究する研究室に入りました。DNAの損傷が正しく修復されないと、遺伝子に変異が蓄積し、がんを発症する可能性が高まることが知られています。そのため、DNA修復の研究を続けるうちに、自然とがんの研究へとつながっていきました。
現在は、抗がん剤の効果を高める「SLFN11(シュラーフェン11)」というタンパク質の研究に没頭しています。このタンパク質の働きを詳しく理解することで、患者さん一人ひとりに合った、より効果的ながん治療を実現したいと考えています。10年以内、いや、できれば5年以内に、自分たちの研究成果が実際のがん治療に役立つことを目指して、日々研究に取り組んでいます。
質問6.がんも遺伝子病と考えたら、発症前にオーダーメイド治療をする人はこれから増えていきますか?
【村井先生の回答】
理論的には可能ですし、実際に、がんになる前から遺伝子の情報を利用して、予防や早期発見につなげる医療が始まっています。例えば、BRCA1やBRCA2という遺伝子に生まれつき変異を持つ人は、変異を持たない人と比べて、乳がんや卵巣がんを発症する確率が数倍以上高くなることが知られています。そのため、遺伝子検査によって変異が見つかった場合には、通常よりも早い時期から検診を受けるなど、一人ひとりのリスクに応じた対策をとることができます。また、体外受精で得られた受精卵の遺伝子を調べ、特定の遺伝子変異を持たない受精卵を選ぶ「着床前遺伝学的検査」という技術もあります。ただし、どのような病気に対して実施を認めるかについては、医学的・倫理的な議論が続いています。一方、生まれつき持っている遺伝子変異は、基本的に全身の細胞に存在するため、すべての細胞の遺伝子を改変することは現実的ではありません。セミナーで紹介した遺伝子治療は、特定の酵素が不足する病気に対して、一部の細胞でその酵素を作らせることで症状を改善するというものでした。
ここからは、少し未来の話です。私が興味を持っているのは、p53という「がん抑制遺伝子」です。p53には、DNAが傷ついた細胞の増殖を止めたり、異常な細胞を取り除いたりする働きがあります。もし受精卵の段階でp53遺伝子を複数コピー導入できたら、がんになりにくい人間を作れるのではないか、と考えることもできます。ただし、実際にそうなるかはわかりませんし、安全性や倫理的な問題から、人間で行うことは認められません。実は、ゾウは人間よりもはるかに体が大きく、細胞の数も多いのに、体の大きさから予想されるほどがんを発症しません。その理由の一つとして、ゾウがp53に関連する遺伝子を約20コピーも持っていることが注目されています。このように、自然界の生き物の仕組みを研究することで、将来、がんを予防する新しい方法が見つかるかもしれません。
質問7.STAP細胞はありますか?
【小川先生の回答】
STAP細胞の存在は確認されていません。
質問8.小麦胚芽抽出液はどうやって作るのですか。また抽出液中に小麦由来のmRNAはないのですか。
【小川先生の回答】
小麦の種子から胚芽を取り出し、よく洗って胚乳を完全に取り除いた後、緩衝液とともに粉砕して、上清を回収します。
また、生物の中にはRNAを分解する酵素が大量に存在しているので、mRNAの寿命は長くありません。ですので、小麦由来のmRNAはほとんど残っていません。
質問9.家でもタンパク質は作れますか?麦以外の翻訳機はありますか?
【小川先生の回答】
物理的には可能ですが、安全のためにも実験環境が整っている場所で行うことが推奨されます。
また、翻訳機は全ての生物が持っています。「抽出した翻訳機」に限定するなら、原核生物では、大腸菌由来のものがよく使用されています。真核生物では、小麦胚芽の他、ウサギ網状赤血球、昆虫細胞、ヒト培養細胞由来のものが報告されています。その中でも小麦胚芽由来の翻訳機はタンパク質の合成効率が非常に高いです。
